せまくるしい五畳半の部屋を、梅雨特有の湿気た空気が満たしている。普段は他人より気を使っているつもりの、汗とか泥とか、その他諸々男子特有のにおい。この季節は、そんなうざったいにおいが嫌でも三割増しくらいになる気がした。無機質な音をたてて首を振る使い古された扇風機の風が、この男くさい部屋に似合わない柔らかくて繊細になびく髪を攫う。彼女はまた、「親同士が親しい幼馴染」の特権で、思春期の異性の部屋にいとも簡単に上がり込んだらしい。そんなことは一度だって許してはいないのに。ひとのいぬ間に。勝手に。

「おかえり、キヨ」

 勝手にあがんなって何回目?素っ気ない態度で俺があしらうと、彼女はあからさまに不服そうな顔をつくった。そうして、ちっとも怖くない顔で幼馴染の俺を睨みつけてみせる。

「キヨってほんとねこっかぶり」
「うるさいよ」

 春頃から伸ばしているらしい彼女の髪は、規則的に吹いてくる風に揺られては落ち、揺られては落ち。そのたびに香る、クラスの女子たちのあいだで流行りの甘ったるいヘアミストのにおいが、より一層俺を苛立たせた。色違いもお揃いも、正直うんざりする。誰がだれを好きだとか。誰がだれに告白しただとか、されただとか。誰とだれから同じ香水のにおいがして、誰がだれと付き合って、別れて。十五歳の俺たちの日常は、ちっぽけな世界のわずかな登場人物で構成される安い恋愛ドラマで溢れていた。

「かわいい女の子にはちゃんとやさしくするくせに」

 ほんとええかっこしいだよね、とシナリオどおりといった風でむくれた彼女は「キヨといるとわたしまで軽いヤツに見られちゃう」とかいうくだらない理由で、教室の中ではほとんど話しかけてこないのだ。それどころか、よそよそしく「千石くん」だとか呼んでみたりして。その下手な芝居が、たいそう俺を不機嫌にさせた。そんなことで不機嫌になっている自分にもむかついて、極力かかわらないように努めているのだけれど、せまい教室の中ではそれがまた逆効果になったりするのだから救いようがない。そしてついには「間宮君に変に思われるから、もっと普通にして」とかなんとか。

「お前にだけは言われたくない」

 付き合ってもいない男にどう思われるかなどを気にして、俺にまでいらぬ芝居を打たせるくらいなら、いっそこんな関係捨ててしまえばいい。男の子の意見教えてと、容易く部屋に上がり込み、短くしたスカートから生えた白く柔い脚を恥ずかしげもなく投げ出して。彼女の重い描く美しい学生生活と、俺の望むふたりの関係は決して交わりそうにない。普通ってなんだ?美しいってなんだ?彼女の理想とは、なんて残酷だろう。

「ちょっとくらい聞いてくれてもいいでしょ。クラスの子の恋バナにはアドバイスするくせに」
のはもう聞き飽きた」

 あいつの前ではクラスメイトAを望んでおきながら、ふたりになった途端幼馴染を振りかざすなんてどうかしている。他の男の気を引くための特別なら、そんなものはいらないよ。


end roll


190709......うんざりするような日常にサヨナラ
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