彼女の小指に光る安っぽいおもちゃみたいな輝きが目に痛くて、やっぱこいつほんとにバカだなぁなんて思う。おもむろに掴んだ腕はびっくりするくらい白くて、しかもこのまま折ってしまえそうなくらい細かった。そう、こいつってば手首を掴み上げられているのにもかかわらず、いまだに「慈郎、どうしたの?」だなんてとぼけた顔をしているからいけない。

「警戒心、なさすぎなんじゃない?」
「慈、郎…?」
「さすがのあいつもたぶんそう言うと思うよ」

 俺が適当に放った言葉に、はまるで冷水にうたれたみたいな表情をつくった。その顔が今度はみるみるうちに赤くなり、丁寧にケアされた彼女の唇が薄く開いて震えるように動く。ほら、なんでもいいから言い返してみろよ。けれど、俺の視線に耐えられなくなったのかなんなのか、その唇は何も告げることなくきゅっと結ばれてしまう。俺なんかの戯言を受け流すことも言い返すことも出来ない程度の気持ちなら、そんなもの、いますぐ捨ててしまえ。
 他の男にこんな風に詰め寄られていいわけ?、と聞いたら、は震える唇をやっとのことで開いて「慈郎には関係ない」と。そう、関係ないね。こんなことしたって、別にお前は俺のもんにはならないし?もちろん誰も褒めてくれやしない。そう考えたら、の肌の白さだとか、繊細な輪郭だとか、綺麗に伸ばされた睫毛だとか、それに縁取られた瞳の黒さだとか、そういったものすべてを失いたくないと感じている自分がひどくバカバカしく思えて、彼女を捕らえている手に力がこもった。

「…慈郎、痛いよ」
「痛くしてんだから、当たり前じゃん」

 ついに彼女の瞳から涙が落ちる。我慢して、我慢して、ようやく押し出されたそれは、俺のよれよれになったカーディガンの袖にあっさりと吸い込まれてしまった。あーあ。その涙はなんの涙なの。掴まれてる手首が痛いから?あいつのことを悪く言われたから?それとも、俺に裏切られたから?こんなママゴトみたいな戯れが裏切りだなんて大層なものにはなれないとはわかっているけれど、十五歳の俺たちにとってはそういう小さい戯れが日常をつくるすべてだった。
 空いた左手でしょぼく光る指環を獲ろうとしたら、水色のマニキュアを綺麗に塗った指に掴まれた。「慈郎お願いだから、やめて」と、涙を貯めた眼で必死に睨んでいる。さあ、どうしてやろう。こんな弱っちい力で押さえてる手なんか、振り払うことも無視することも容易いけれど。

「俺にお願いするより、助けでも呼べば」

 の眼が瞬いて、反動でまた一粒透明な雫が飛び出した。きょう一番傷ついたって顔してる。だからやっぱり、お前ってほんとにバカだよ。そして、もうお前は絶対に、俺のもんにはならない。もう戻せるわけなんかないだろ。なくなっちゃったよ。キミの望む、ふたりの関係なんてさ。


ガラス細工の輝き


150505......それは儚くて、そして脆い、    ----happy happy bithday Jiro-! ;)
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