彼女の手が触れるすべてのものを、誰の目にも触れないところへ、誰の手も届かないところへ隠してしまいたいと思った。それと同時に、どうしていつもみたいな気安さを彼女に向けられないのだろうとも思っている。気にしない気にしない、と言ってへらへら笑うこと。他の誰にも出来て彼女の前でだけ出来ないなんて、そんなのおかしい。

「…ん」

 手を差し出すだけで、そこに自分のじゃないもう一つの手が重ねられる。日に焼けることを嫌った、白くて細い指先。それが自分の指と絡むのだ。手を差し出すだけで。そんなあり得ないことを当たり前のように実現している。

「肉刺だらけだね」
「いまさら」

 確かに、といって笑うその口を、塞いでしまいたいと思う。どうやって?もちろん、じぶんの唇で。そして、俺は唯一、それをすることを許されている。彼女を抱きしめることも、キスをすることも、その白くて柔い肌に触れることも。ぜんぶぜんぶ許されているのに、それでもなお満たされていないと感じる。他の男に笑いかけんなよ、他の男に気安く触らせんなよ。自分はクラスの真ん中で、男女関係なく笑いあったりじゃれあったりしているくせに、彼女にはそれを許さないなんて、我が侭もいいところだ。

「怒ってるの?」

 俺の、いわゆる独占欲というヤツを、わかっているのかいないのか、彼女は繋いだ手をうかがうように引いて横顔をのぞき込む。べっつにぃーって、笑えよ。いつもみたいに、ほら。頭ではそう思うのに、出来ない。今だから出来ないのじゃない。の前だから、出来ない。付き合っているって不思議だ。色んなことが許されて、それまで出来なかった色んなことをしているのに、それと同じだけ色んなことが出来なくなってる。別に法律で定められてるわけでもないのに、子供同士のただの口約束でしかないのに、とてつもなく強い力を持っている。

は、俺のこと、好きなの?」

 不意を突かれた彼女は、大きな目をまん丸にして俺を見上げていた。隠しきれなかった汚い心を誤魔化して、そんなことを問うなんて卑怯だと思った。好きだなんて、言葉を貰ったくらいで満足するわけでもないくせに。の髪が風に揺れる。その繊細さが愛おしくてたまらない自分を、愚かだと思う。

「英二の男の子らしいとこ、大好き」

 の甘い視線が俺を突き刺す。バカ、なんてこと言うんだ。お前は、俺のことどれだけ愚かにすれば気が済むの。結局俺は何にも言えない。を腕の中に閉じ込めるしかできない。けれどもそれは、俺にしか許されていない。


共に堕ちよ


120719......愚かさこそ恋のすべて
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