めずらしく部活のない放課後、いつもの部室、いつものメンツ。気の抜けた炭酸とスナック菓子と週刊少年誌。投げ出された三つのスマートフォン。ミーティング用の机に好き放題並べられた不真面目なあれとこれとそれ。こんなところを副部長や柳先輩に見られたら、たぶん大目玉くらうだろう。たるんどるー!ってね。
 俺は何度目かの丸井先輩の命令で、冷蔵庫に飲み物を取りにいかされていた。なにかってーと「おい赤也」と言いつけられ、口ごたえしようもんなら二言目にはすぐ「おまえ後輩だろーが」とかいって、このひとはまじ横暴だ。仁王先輩は仁王先輩で、丸井先輩の理不尽を気にもとめず、いたいけな後輩の俺を守ってもくれない。むしろ、ちっとも関心のない調子で「ブンちゃんひどかー」とかいって笑っていたりする。はっきり言って血も涙もない。それでも俺が部活以外の時間にこのふたりとつるむのは、テニス部きってのプレイボーイのおふたりにあやかりたい気持ちが半分、テニス以外の不真面目な色々にワクワクする気持ちが半分。だって、俺も立派な思春期だし?このふたりと一緒にいると、正直普段の三割増くらい女子からの視線がアツい。いや、三倍か?

「そいえば丸井せんぱい、A組の町田に告られたってマジですか?」
「町田?」
「背低くて、目デカくて、肩くらいでふわってかんじの髪の、家庭科部のやつッス」
「あー、あのエロい雰囲気の巨乳の子な」
「におせんぱいさすがにそれはゲスい」

 誰が放り込んだのかわからない新品のコーラを開けながら、このところクラスの女子の間で持ちきりの噂について尋ねてみた。このふたりの周りには、惚れた腫れた告った振られたヤッたヤラないその他諸々、その類の浮いた噂がたちまくってて、それは入学したての一年生から高等部まで。先輩後輩を問わずどこにでも、とにかくふわっふわに浮きまくっている。ほんとのところテニス部で一番モテるのは幸村部長なんだけど、そこはお手つき如何の問題か、そちらはぜんぜん浮いてない。
 入学当初より可愛いと評判のいかにも肉食なあの女子も、どうやら丸井先輩にお熱だったらしい。その噂を聞いて落ち込むクラスメイトも何人かいたけれど、噂の的、当の本人はいまいち渋い顔をしていた。というより、ぜんぜん興味ないってかんじ?

「あー、あ、先週告られたわ」
「やっぱり!そんで!?」
「フった」
「えーーーー!もったいねー!あいつ、二年ではすげーモテますよ?」

 俺が思わずデカイ声を出したら、丸井先輩は一瞬うっとうしそうに顔をしかめて、仁王先輩はわざとらしく耳を塞いだ。こういうポーズを一瞬でとれてしまうところが、このふたりが噂の的になる所以だと、常々俺は思っている。嘘です。この前、柳先輩がそんなようなこと言ってたのを聞いただけ。当の丸井先輩はまるで興味ないといった風で俺の注いだコーラを飲んでから、いつものガムを口に放り込んで言った。

「いやー、なんかそういう気分じゃないんだわ、いま」
「気分じゃない…!?」
「なんじゃ丸井、めずらしいのぅ」
「そっすよ!いつもだったらとりあえず食っとこ、てかんじじゃないすか」
「赤也お前ぶっとばすぞ」
(やべぇこれまじでぶっとばされる!)

 仁王先輩に便乗して事実を述べたら、興味なさそうな顔のままの丸井先輩に胸ぐらを掴まれた。真顔怖すぎる!しかも苦しい!このひと、クラスの女子たちに時々ブンちゃんかわい〜とか言われてるけど、はっきり言ってぜんぜん可愛くない。口悪いしすぐ殴る。そしてどんなにこのひとたちが理不尽でも、ジャッカル先輩がいないと誰も俺を守ってくれない。あと、ちょっと鬱陶しいけど柳生先輩も。そうだ、ダブルスってほんとうまく出来てるんだな。柳生先輩が「やめたまえ」と眼鏡をあげるのを想像したところで、丸井先輩の手がパッとひらいてシャツの襟が開放される。そうしてグリーンの風船が弾けるのと同時に、丸井先輩は仁王先輩に視線を投げた。

「仁王、おまえこそどーなんだよ」
「なんが?」
「高等部のマドンナに言い寄られてるって聞いたけど」
「え!?それってあのユースのサッカー部エースの彼女の?マジ?」
「あー、あのひと」
「将来Jリーガーの有望株フッて、中学生にお熱って大騒ぎらしいぜ」
「本気のやつじゃないすか!すっげーーー!あの黒髪ロングの人っすよね?」
「なぜか連絡先知られとって、しつこく誘われててうざい」
「うざい!?」

 なんとこっちは高等部!丸井先輩がちょっとだけ面白そうに仁王先輩をからかうと、今度は仁王先輩が無表情になった。もともとずっとつまんなそうな感じだったけどね。てかこのひとなんでそんな情報知ってんだ?
 とにもかくにもこのふたり、誰もが羨むアプローチをあっさりと疎むというなんとも罰当たりなことをそろってしている、らしい。それにしても、もしかしたらこのふたりの連絡先、めちゃくちゃ高値で売れるんじゃ…?

「あーそれやられてるわ。どうせ一個上の先輩らだろ?」
「たぶん」
「あのひとらまじ面白半分でそゆことするからなー、うぜー」
(え?ひとのこと言えるか?このひとたち)

 これまでふたりに面白半分でされてきた所業を思い出していたら、丸井先輩がちょっと怖い顔でこちらを見ていた。ギクッ。

「あ?赤也なんか言ったか?」
「いやいやいや!言ってません!」
「なんじゃ、なんか言いたいことあるじゃろ」
「言ってみろぃ」

 俺が顔に出すぎなのか、心当たりがあるからなのか、ふたりから同時に問い詰められて背中を冷や汗が流れた。ふつうに怖いです先輩!俺は急いで神妙な顔を取り繕った。

「いや、なんつーか、ふたりともすげーなって、思ってます」

 素直にふたりへ称賛の意を送ったら、(とにかくここは称賛ということにしておく)丸井先輩は半笑いで俺を見た。あ、すっげーバカにされてる。いや、まあ慣れてますけどね!

「そういうお前はどうなんだよ」
「俺?おれは完全にさん一筋で狙ってます」
?」
「ほー、それは初耳だな?」
(こわいこわいこわい)

 俺がうっかり幼馴染の名前を出したら、丸井先輩はあきらかに不機嫌になってずいっと身を乗り出した。ほんと怖い!不良!と思って慌てて椅子を下げて距離をとったけど、さすがに手は出てこなかった。かわりに、呆れた風な溜息がかえってくる。

「つーかあいつ無理じゃね?この前サッカー部の藤原に告られてたべ」
「え!?まじで!?知らないっす!付き合った?」
「いや、あれはまだ保留しとるよ」
「なんでお前が知ってんだよ」

 俺が密かに心を寄せている、このふたりのクラスメイトの先輩。そして丸井先輩の幼馴染。正直、なにかってーとこのふたりがちょっかいかけてるから、男の影とかないと思ってた。さん、まじで告白されたの?その藤原とかいうやつ、めちゃくちゃ勇気あるな。こんな凶暴な幼馴染がクラスにいるっていうのに、ぶっちゃけ脈なくね?とりあえず、俺が密かな恋心を明かしたときよりずっと不機嫌になった丸井先輩、めちゃめちゃ怖い。

「相談されたんよ、どうしたらいいかな?って」
「は?うぜーーー!仁王に相談するとかまじうぜー」
「たしかに、なんでにおせんぱいに?」
「優しくて、口かたそうやから」
「は?誰それ?」
「おれ」
「いやいやいや、違うだろ」
「むしろ、丸井せんぱいにしそうなのに。仲いいし」

 不穏なふたりの言い合いをちょっとでも和ませようと丸井先輩のフォローをしたつもりだったのに、なぜかギロリと睨まれた。イライライライラ。このひと、もう何を言っても多分逆効果だ。おとなしく黙っとこう。

「別に良くねーよ。ただの腐れ縁だっつの」
「なんじゃブンちゃん妬いとんの?素直じゃないのう」
「妬いてねーよ!ふざけんな!」
(なんだこのひとわかりやす!)

 あっぶねー!うっかり口滑りそうになった!ちょっと前に心に誓った(大げさ?)黙っとこうを、早速やぶるとこだった。丸井先輩がかなりキレ気味なのに、余裕綽々の仁王先輩は気だるげに丸井先輩を指差す。

「丸井はな、不誠実そうやから相談されんのよ」
「俺のどこが不誠実なんだよ」
「巨乳ばっか食い荒らしとるとこ」
「うわ、サイテー!!」

 やばい、と慌てて口を抑えたけれど時既に遅し。めちゃくちゃデカイ声であきらかな失言を繰り出してしまった。ああ、すげぇ睨んでる!隣で肩を揺らす仁王先輩に、元はと言えばアンタが変なこと言うから!と視線をおくったけれど、ちっとも気にしてない。このはくじょうものー!

「赤也おまえ調子のんなよ?」
「すんまっせん!うそです!ブン太サン、サイコー!」
(いってー!なんで俺だけ!!!)

 仁王先輩が先に悪口言ったのに、なぜか俺だけ殴られた。ひどい…なんて思ってても仕方がないので、今度こそ俺は口にチャックを誓った。もう、何言われても口開けねぇ!
 反撃とばかりに、グリーンアップルを弾けさせた丸井先輩が仁王先輩を指差した。

「つか、お前こそ圧倒的に不誠実だろ。メンヘラ量産しやがって」
「しとらんよ。フられんのはいつも俺やき」
(嘘つけーーーーー!)
「そう仕向けてんのお前だろこの詐欺師がよ」
「心外じゃ」
「は?うぜー」
(このひと、もはや世界中のすべてをうざがってるな)

 呆れた様子の丸井先輩をよそに、仁王先輩はまるで心から哀しんでる、といった表情を浮かべていた。この顔に、世の女子たちは騙されるんだな。仁王先輩に関心しつつも、先程の教訓を活かしてとにかく口を開かないことに徹していたのに、なぜか丸井先輩がこちらを睨んでいた。なんで?

「あ?んだよ赤也、言いたいことあんなら」
「ないっすないっすないっす!」
(えーなんで殴んのーーー!)

 何も言ってないのに、なんなら全力で否定もしたのに、なぜか丸井先輩のげんこつが飛んできた。この人ほんとに、加減ってもんをしらない。先輩の苛立ちのはけ口にはる可哀想な後輩、切原赤也。
 これ以上殴られてはたまらないので、頭を抑えながら仁王先輩の後ろに隠れたら、丸井先輩が盛大に舌打ちをした。こわい!仁王先輩はというと、さっきまでの言い合いなんて忘れてしまったかのように机の上でチョコレートをおはじきみたいにはじいている。マイペースすぎんだろ!おそるおそる元いた位置に椅子を戻して、すっかり気の抜けてしまったコーラを口に含んだところで、仁王先輩がこちらに視線を向けて呟いた。

「赤也、お前さんはやめといたほうがええよ」
「…え!なんで!?」

 突然の試合終了宣告。すごいタイミングで言うもんだから、思わずコーラを丸井先輩に吹きかけそうになった。危機一髪。え?いや待って、俺の恋まだ始まったばっかなんすけど!(つか厳密にはまだ始まってもない!)仁王先輩がクソ真面目な顔でそんなこと言うと、ほんとに諦めそうになってしまう。なんかやばいことでもあるんじゃないかと思えてしまうのだ。
 ところが、仁王先輩は突然ニヤリと笑った。

「あいつ、モテよるから」
「は?いやいやいや、ないわ」
「それは、ブンちゃんがいーっつも隣におるからよ」
「虫よけ?――うそです!うそ!用心棒!SP!いや、ナイト!!騎士騎士騎士!」
(っぎゃーーーー!はげる!)

 だからもうほんとにさあ!学習しろ俺!ちがう!丸井先輩加減して!うっかり口が滑ったおかげで、丸井先輩に思いっきり髪を掴まれた俺は半泣きになった。珍しく仁王先輩が、「まあまあ放してやりんしゃい」と俺をかばってくれので、神!と思ったけど、もとはといえば仁王先輩が悪い。たぶん。
 先程からヤラれ続けている頭の痛みを誤魔化そうと思って、しけはじめたポテトチップスを手に取った。それを口に放り込みながら、さんがモテるってのは納得するななんて思う。丸井先輩が男よけになってるのもね。仁王先輩がもったいぶるように指を折って数えるポーズをしながら言う。

「まずな、のやつ、いっつもにこにこしとるんよ、」
「…わかります!ほんと癒やされる!」
「そうかあ?」

 ポテチ飲み込んで全力で同意する俺。ガム膨らまして不服そうな丸井先輩。
 まあ聞きんしゃい、とチョコをはじいて仁王先輩が続けた。

「あいつ女バスのマネやっとるじゃろ、面倒見もいい」
「しかも、女バスってとこがいいっす。男目当てじゃないかんじ!」
「それでいて、ちょっと抜けてる。でもって、顔もわりとかわいらしい」
「顔!かわいいっす!まじで!…いてー!なんで!?」
「なんかむかついた」

 もう何度目かわからないげんこつが飛んできたけど、俺は避けずに受け止めた。知ってる。避けるとそのあと三倍くらいでやられるって。「それなのに、」仁王先輩は、まるでミステリー映画の謎解きみたいに勿体つけながら話を続けてく。

「小学校おんなしの丸井が三年間同じクラスときた」
「で?」
「密かに好意を寄せてる男たちは、うっかり告白もできんのよ」

 やっぱり!こんな凶暴な幼馴染がおんなしクラスにいて告白できるわけがない。まあ正直、俺からすると仁王先輩と仲良さそうなのも近づきがたい理由の一つになってると思うけど。

「けど、藤原のやつがその均衡をやぶった。しかも、は迷うとる」
「丸井せんぱいと付き合ってないってバレた!」
「ぴんぽーん」
「いやいや、俺ら付き合ってる空気とか一ミリもないだろ」
「そんなことないっすよ!おれ最初先輩のかのじょと思ってました!」
「ブンちゃんはジャイアンやから気づかんのよ」
「仁王おまえな、」
「丸井せんぱい!いたい!いたいから!」

 丸井先輩は正解を言い当てて喜んだ俺のネクタイをなぜか引っ張って、顔は仁王先輩を睨みながら手だけ思い切り引いた。絞まってる!それ俺の首が絞まってるから!ほんとに、このひとたちといると命がいくつあっても足りない。

「これは、波乱の予感じゃな」

 さっきまで指ではじいていたチョコレートの包みを解きながら、仁王先輩が告げた。波乱の予感。それってなんか、すっげーワクワクしません?丸井先輩は呆れた顔してるけど、俺は前のめりで勢いよく右手を上げた。「てことは!おれにもチャンスあります?」俺の自信満々な立候補にふたりは同時に首をかしげた。どんだけ失礼な息ぴったりだよ!仁王先輩はチョコ口に放り込んで眉間に皺よせてるし、丸井先輩は仁王先輩が放った銀の包み紙に噛んでたガムを吐き出してる。

「いやだってさんいっつもおれにやさしいし!」
「あいつは昔っから年下に甘いんだよ」
「おれ、週二回はいっしょにお昼食べてるし!」
「俺らについてきてるだけだろが」
「英語の辞書も貸してくれた!」
「そもそも忘れんなバカ」

 丸井先輩ときたら俺の主張を端から全部否定してくる。でも、さん絶対いちばん仲良い後輩俺だと思うんだよな。そうですよね?だってこの前、こんどお弁当つくってきてくれる約束したし!練習試合誘ったときも「赤也くんのことしっかり応援するね!」って言ってたし!

「まあ、藤原よりかは脈あるじゃろな」

 やったー!まじ、おれ、本気で狙う!仁王先輩の一言にいい気になった俺は、思いきり立ち上がって両手をあげて宣言をした。さん、待っててくださいね?俺が絶対しあわせにします!
 と思ったら、隣からまさかの爆弾が投げられた。

「といっても、いま相談うけとるおれがいちばん有利じゃな」
「え!?」
「は?仁王、おまえあいつとかぜんぜんタイプちげぇだろ」

 いやちょっとまってそれは聞いてない!丸井先輩は一瞬ポカンとしてたけど、俺が今日いちばんのデカイ声を出したので我に返ったのか、すぐに冷静に突っ込んだ。けれども仁王先輩は、まさにツーンといった感じで顔をそむけて頬杖をついている。

「そんなことなか」
「え、ちょっとどういうことすか!」
「つか、どう考えても俺がいちばん優勢だろ」
「え!?なんで?ふたりさっきまで女いらないみたいなかんじだったじゃないすか!」

 ちょっと!丸井先輩も?ふたりして俺の恋路を邪魔しようとしてくるもんだから、いたいけな後輩の俺はほとんど叫ぶようにふたりに詰め寄った。

「丸井せんぱい、いまそういう気分じゃないって言ってた!」
「気が変わった」
「仁王せんぱい、誘われるのとかうざいって!」
「なんのことかのぅ」
「ひでー!ふたりとも本気じゃないんだから譲ってくださいよ!!」

 このひとたち、さっきまでぜんぜん興味なかったくせして、なんてこった!なんなら丸井先輩なんて、ないわとか言ってたし。いや、もちろん幼馴染とられたくないオーラはビシバシ出てたけどさあ。でもそれって好きとかじゃないですよね?つーか、ふたりとも散々やりたい放題しといて今更そんないちばん近いとこにいる女友達にいくとか卑怯だ!と思うのに、ふたりは気怠げに頬杖をついて騒ぐ俺のことを見ていた。ほんとこういうときだけ息ぴったりだから嫌になる。

「本気ねぇ」
「そもそもお前じゃ無理だっつの」
「ふたりとも鬼!後輩の純情な恋心なんだと思ってんすか!」
「なーにが純情だよ。手近なとこで済まそうとしやがって」
「そんなんじゃないすよ!」

 それを言うならふたりこそ、めちゃめちゃ手近じゃないすか。なんて、言ってもしょうがないんだろうけど。部室には西日が差し込んで、散らかった机を照らしていた。仁王先輩が俺たちの気を引くように、右の人差し指で三回机を鳴らす。そうして、最高で最低な提案を投げつけた。

「ほんなら、誰がを落とせるか勝負するか?」

 丸井先輩が新しいガムを口に放って、乾いた笑いをこぼした。挑発的な眼で仁王先輩を見遣る。

「おもしれーじゃん。ま、勝負するまでもないけどな」
「それはわからんぜよ」

 仁王先輩が告げたゲーム開始によって、一瞬で空気がかわる。勝負と聞いたら、黙っていられないのが俺らっしょ?先輩たちの目の色があきらかに変わったのも、もちろん俺は見逃さなかったし、同じ土俵にあがるからには絶対に負けたくなんかない。動機は不順で内容も最低だけど、先輩たちに挑むのも打ち負かすのも、最高に興奮するし、胸が踊る。

「くそー!こうなったらぜったい落とす!」
「ま、せいぜい頑張れよ」
「あ!つか、ふたりクラス同じなのズルい!」
「知るか。だったらお前こそ後輩面して甘えんのやめろよ?」
「まあまあ、抜け駆けは大いにありということで」

 丸井先輩のガムが弾けて、仁王先輩が立ち上がったところで、無造作に置かれた三つのスマートフォンが同時に鳴った。
 さん、覚悟しといた方がイイよ?今日この瞬間から、全力で俺のこと好きにさせるんで。そうそう、ちょっかいかけてくる赤髪の幼馴染と、優しいフリしてる銀髪のクラスメイトには要注意。とりあえず自信をもって言えることがひとつだけ。
 さん、きっと悪いようにはしないから、安心して俺にオチてくださいね!












110612ーRe.190922